第七話 旅の共



























自分の部屋のベッドで横になっていたアルトゥルは困り果てていた。






「旅の共、旅の共・・・・」






何度も何度も旅の共と呟いては






「あああああっ!!やっぱりいねぇよ。俺の旅の共をやってくれる物好きな奴なんていねぇぇぇっ!!」






と絶叫していた。





なぜアルトゥルはこれ程までに絶叫しているか?
それは、十分ほど前のことだった――――




















「ただいまぁ」






疲れ果てて俺は家に着いた。





なぜ、俺が疲れ果ててるかって?





何故かというとな、





俺の家は巨大な木の幹の中間辺りに建っている。
一言で言えば地面から何メートルも浮いたところに家が建っているのだ。
ここで一つ問題がある。





どうやって家まで行くのでしょうか?
と言う問題だ。





答えは階段。
木に沿って小さな階段が幹の周りをぐるっとまわるような感じで作られている。
幹の太さは直径20メートルから30メートルね。





それを俺は家に帰る度に登ってる。





でもこんな苦労するのは俺だけだ。
俺以外の家族はみんな魔法で家まで瞬間移動してる。





これが俺が家に帰ると疲れる理由だ。
まぁ、運動が苦手な俺が太らない理由でもあるけどな。





あー、そのせいで腹減ったな。夕飯早く食べたい。
さっきからリビングのほうでうまそうな匂いが漂うっているせいで余計腹が減る。





空きっ腹を押さえながら、リビングに向かった。





ムッ、この匂いは母さんオリジナルデミグラスソースの匂い。
俺結構、デミグラスソース好きなんだよな。





ちょっと上機嫌でリビングに行ったら案の定母さんがキッチンに立って巨大ななべをかき混ぜていた。
そこから覗くのはこげ茶のデミグラスソース。






「兄さん帰ってたんだ。気づかなかった。」






セヴランだ。
母さんの手伝いをしていたのか深緑のエプロンをつけ、平皿を持っている。






「ちゃんと、ただいまって言ってたんだけど。」





「じゃ、こっちに聞こえてなかったんだね。」






セヴランは皿を食器棚に戻しながらしゃべっている。
皿を戻してるからまだ夕食の支度をしているわけではないか。
残念だ。






「その汚れた傘なに?ちゃんと傘は玄関に置いといてよ、部屋が汚れて掃除するの大変なんだから。」






俺が持っている武器―――というより傘を見て訝しげに見つめている。





やってしまった。この傘を傘立てに置くことを忘れてしまったのだ。
幸いなことにセヴランはこの傘が俺の武器ということがわかっていない。






「はははっ、腹が空きすぎて注意力散漫してたんだな。置くの忘れちゃったぜ。」






適当にごまかし玄関に行こうとするところを
セヴランが問いかけてきた。






「その傘家の傘じゃないよね?」






鋭い質問に舌打ちをしたくなった。





鋭すぎるぞお前。
鋭すぎて逆に腹が立ってくる。





ここも適当に誤魔化して乗り切るか。






「マスターが雨降りそうだから傘貸してくれたんだよ。」





「ふうん、マスターがそんなボロくさい傘貸したんだ。」






ちょっと適当すぎたのか少し疑り深い目で見られた後
納得したのか皿を片付け始めた。





俺はほっとしながら玄関に向かいながら、マスターにすまないと思った。





マスター、すまない俺の代わりに泥をかぶってくれ。
いくらなんでも、俺はこの傘が武器とはセヴランには言えん。





玄関に傘を置いた後、もう一度リビングに戻った。





俺はリビングにある大きめのテーブルに座ろうとしとき、
セヴランが再び問いかけをした。






「兄さん。明後日出発だけどちゃんと準備できてる?
それに旅の共は決まってる?」






・・・・・・明後日出発?





えっ?えっ?待って出発って。






「明後日出発?じょ、冗談だろ」





「冗談じゃないよ。明後日森の木から旅に出るんだ。」






う、嘘だ。
俺何にも準備してないんだぞ。
それに旅の共についても全く考えていない。






「まぁ、旅に必要なものは森の木で用意してくれるけど、旅の共は自力で見つけないといけないからね。」






最初の言葉は少し安心させるものだったが、
やはり旅の共については自分で探さなくてはならないらしい。






「兄さんの旅の共決まったの?」





「ま、まだ決まってないけど、当てはちゃんとあるから大丈夫だ。」






冷や汗を流しながら嘘をついた。
旅の共を引き受けてくれる人の当てなんて全く無いのだ。






「それならいいけど・・・・・」






さすがはセヴラン。





俺が苦し紛れの嘘をついているのを薄々気付いている様子だ。





セヴランにあんまり心配はかけたくないので夕食が出来上がるまで自分の部屋に雲隠れでもしとこう。
というより、夕食が出来上がるまでに旅の共について考えておかないといけない。






「俺、腹減ってるからさ。夕食出来るまで昼寝してくるよ。」






と言いながら二階にある自分の部屋に向かう。






「えっと、兄さん・・・・っ!」






何かセヴランは言いかけたが
やっぱりいいや、と言ってまたもや皿を片付け始めた。





やっぱり気付いてんだろうなぁ。
俺が全然旅の共について考えてないこと。





階段を上がりながら旅の共について考えていた





あと二日、いやあと一日でどうやって旅の共を見つければいいんだ・・・・・・・・





















そのようなやり取りがあった後ずっとベッドの上で苦悶した。





勿論心配の種は旅の共。
何度も何度も考えてみたが旅の共を引き受けてくれる人が思い浮かばなかったのである。






「俺、旅に出られんのかな・・・・・・・」






旅の共を決めないとどうなるか知らないが掟なのだから、
やはり決めておかなくてはならないものなんだろう。





髪の毛をグシャグシャに掻き毟り、頭を抑えた。
頭が考えすぎで熱出てきそうだ。





これ以上考え込むと本当に頭から湯気が出てきそう。
ここは一つ、外に出て気分をリフレッシュしたほうがよさそうだ。





ムクッとベッドから起き上がって、ボサボサになった髪の毛を整えた後、
一階に降りていった。











一階に降りた俺は母さんとセヴランに二十分ぐらい外歩いてくる、と言って外に出た。





ついでにあの傘も持って。





長い階段を下った後、俺はネオの待ち伏せに遭った広間に着いた。





手頃な木の切り株を見つけ、そこに座り込む。
涼しい風が吹いている。






「どうしよう・・・・、旅の共」






頭をリフレッシュしに来たのだがやはり頭の中からは旅の共のことが離れなかった。





頭を抱え込み背中を丸める。
どうしようもない問題が自分に襲い掛かっていた。






「ううう、旅の共見つからないよぉぉぉ・・・」





「旅の共見つからないんですか?それは大変なことですね。」






呻いていたら急に声をかけられ、思わず






「そうなんですよ。旅の共見つからなくて大変なんですよ。」






と言ってしまった。






「・・・・・・・?」






誰、今声かけたの?





パッと顔を上げた。





目の前に笑顔の男性の顔があった。






「うぎゃ」






驚きのあまり叫び、岩から転げ落ちた。





目の前にいた男の方も驚いた様子でおっと、と小さく言って、転げ落ちた俺から少し離れた。






「驚かしちゃったみたいだね。ごめんよ。」






地面に頭を打ちつけ、痛みのあまり身もだえしている俺に手を伸ばしてきたのは






「レオン・バタニカンさん?」






手を伸ばし握った手の主は、
今日、ユニコーンで会った男性だった。






「レオ・ボスニアンね。」






ニコニコとした笑顔で名前の間違いを指摘し、俺を起こしてくれた。





めちゃくちゃ失礼だろ俺。
今日会った。しかも二、三時間前にあった人物の名前忘れるなんて失礼じゃないか。俺が言った名前も言い方は似てるがほとんど間違えているし・・・






「ははは、少し驚かしてみようかなって思ったんだけど思った以上に驚いちゃったね。」






少し笑いながらレオさんは言った。
その様子では俺が物凄い名前の舞が得は気にしてないように見える





でも、気にしてなくても謝らなくてはならない。





「別に俺のほうも少し気が抜けてたんでいいですよ。それに俺も数時間前に会ったレオさんの名前を覚えてなくてすみませんでした。」






起き上がって軽く頭を下げる。





だが、そんな俺の行動をレオさんは片手を挙げて制止した。






「こんなに早く会えるとは思ってもみなかったからね。それに名前をフルネームで覚えるの大変だから。」






レオさんやはり、第一印象どおりに優しくそして、紳士的だ。
俺もそんな風になりたいぜ。





その前に一つ疑問。
レオさんここに何のようなんだろう?
この先は俺の家しかない。つまり行き止まりだ。





だが、その疑問もすぐに解けた。






「レスタンスくん、これユニコーンに忘れていったから届けに来たんだ。これ、目的の旅に必要な仮面だろ?」






スッと出されたのは傘と一緒に出てきた汚れた仮面だった。





思わずアッと叫んでしまう。
確かに俺傘は引っ掴んできたが仮面をどこかにしまった覚えが無い。






「あ、すみません。
わざわざこんな所まで届けに来てくれてごありがとうございます。」






もう一度頭を下げた。






「別に平気だよ。今日の夜は暇だからね。最初はマスターが届けるって言ってたんだけど用事があったみたいだから、僕が代わりに届けただけだから。お礼なんて必要ないよ。」





「そうですか」






レオさん心広いなぁ、尊敬しちゃうぜ。
なんか、心が広すぎて俺がちっぽけに見える。






「じゃ、ちゃんと君に届けたからね。僕は家に帰るよ。」






クルッと踵を返し、ニコッと笑った後歩き出した。






「あり・・・いや、さようなら」






最後にもう一度礼を言おうとしたが、お礼は必要ないという言葉を思い出して普通にさようならを言った。





しばらくレオさんの後姿を見ていたがそろそろ家に帰らないと夕食が出来上がってしまうことを思い出し、
家に帰ろうとしたとき。






「レスタンス君、一つ言い忘れたことがあるんだけど・・」






後ろにレオさんがいた。





びっくりしてうわっ、と叫んでしまい、後ろに飛びのいた。
全然近づいてきたことに勘付かなかった。






「あの、言い忘れたことって何ですか?」






心臓が物凄い速さで動いているのが分かる。
レオさんって驚かすのがすきなのだろうか?






「えっとね、実は・・・・・」






少し考え込むような素振りを見せた後






「君の旅の共を引き受けていいかな?」






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