第八話 第一印象 少し暗めの店内。 俺は昨日来ていたユニコーンに居た。 ここで俺はある人物を待ってをしている。 その待っている人物とは、レオ・ボスニアンだ。 何故待っているのか?それは昨日、仮面を届けに来た時に言ったあの発言について話すためだ。 「昨日、旦那と楽しく話してた人がアルトゥルの旅の共引き受けてくれるんだって?」 今日はマスターの方が買い出しに行ってる為か今ユニコーンに居るのはマスターの奥さんだ。 奥さんの名前はポーリャ、あの少しオカマっけのあるマスターにはもったいないほどの美貌の持ち主。天然パーマの黒髪を後ろで束ねバンダナを頭につけ、顔は細長い眉毛にちょっと細めの目、鼻筋もすっきりとして高い。 昔も今もかなりモテるポーリャさんだ。 「ポーリャさんなんで知ってんの?」 「んー?ああそれはね。昨日、旦那が話したんだよ。『紳士的で優しいそうな男性がアルトゥルちゃんの旅の共をやってくれるんだよぉ〜』ってね。」 はぁ、なるほど、と理解できる。 でも、そうなるとレオさんはユニコーンを出る前から俺の旅の共を引き受けるつもりでいたということになる。本当にわからないな、昨日会っただけの俺の旅の共を引き受けるなんて・・・ ぼんやりいろいろな憶測を考えながら、頬杖を付いた。 と、不意に店の入り口からおっとりとした声が響いた。 「あれ?もう来てたんですか。」 レオさんだ。 昨日と同じように優しそうな笑顔を浮かべている。 「あっ、えっとここでご飯を食べようかなぁと思って早めに来といたんです。」 「そうなんですか。確かに今はお昼時ですね。僕も昼食がまだだったので食べときますか。」 レオさんは俺が座っているカウンター席の横に座り、メニューを見ながらポーリャさんに向かって 「僕に鳥とトマトのサンドウィッチを、それとコーヒーを砂糖四つでミルクは多めで。」 「じゃあ、俺はココアにオムライスで」 二カッと笑いながら片手を少し挙げて注文をする。 ポーリャさんは、はいはいと返事をしながらマグカップを二つ取り出す。 「アルトゥル、ココアにオムライスの組み合わせはどうかと思うわよ。私。」 「別いいじゃんか。飯と飲み物の組み合わせなんて。俺が今飲みたいからココア、俺が今食べたいからオムライスなんだから。」 「んー、なんか、言ってることが説得力があるのかないのかよくわからないわね・・・・」 少し眉間に皺を寄せ、小さな鍋で牛乳を沸かし始める。 それと同時にコーヒーを入れるためのお湯をやかんで沸かし始めた。 「レオさんってコーヒーは甘くないと駄目なの?」 ポーリャさんは俺たちが注文していた品を全て出し終えた後、くつろいだ様子でいすに座りコーヒーをすすっていた。 パクパクと出来たばかりのオムライスを食べながら、ポーリャさんの質問について考える。確かにレオさんコーヒー頼んだとき角砂糖四つ入れてくれって頼んでた。砂糖をそんぐらい入れると苦甘くなってしまいそうだ。 「いえ、別にコーヒーが甘くないと飲めということはないんですが仕事中疲れを取るために砂糖を多めに入れたコーヒーを飲んでいたんです。それがどうも癖になってしまって、今はもう無意識に砂糖を多く入れてしまうんですよ。」 「ああ、確かに疲れたとき甘いもの食べると頭が冴えるわね。」 ・・・・へぇ、そうなんだ。 俺疲れるほど仕事したり勉強したりしてないからそうなことぜんぜん知らないや。 ズズズッと甘ったるいココアを飲みながらポーリャさんとレオさんのやり取りを眺めた。 「ねぇねぇ、レオさんはなんでアルトゥルの旅の共を引き受けようと思ったの?」 ああ、そうそう。それだよ。 俺も聞きたかったんだよね。その理由。 いくらなんでもただの良心でこんな問題ばかりある俺の旅の共を引き受けるわけがない。多分、それなりの理由があってのことだろう。 「レスタンス君の旅の共を引き受ける理由ですか・・・。まぁ、なんと言えばいいのでしょうかね。ちょっとしたトラブルでなったと言えいいのでしょうか?あともう一つあるのですがこれは、僕個人の理由です。」 レオさんはこめかみ辺りをさすりながら言った。 ちょっとしたトラブルとレオさん自身の理由で俺の旅の共を引き受けたのは分かった。しかしだ、あまりにも何と言うか・・・ 「明確な感じしないな…」 小首をかしげながら声に出した。 ・・・って、俺。何声出して言ってんだよ。 レオさん隣にいるから丸聞こえだろ。 「あはははっ!明確じゃないか。確かにその通りだね。ごめんよ。ただ、あまりにも馬鹿な理由で君の旅の共を引き受けたからね。それを他人に言うのが僕としてはちょっと恥ずかしいんだよ。」 と、俺のかなり不躾な言葉に対し全く気にしてない様子で笑い飛ばした。 レオさんは少し冷めてしまったコーヒーをグイッとあおり、トンッとマグカップをカウンターに置いた。 「引き受けた理由については・・・・・まぁ、誰も聞かれないときに話してあげるよ。ところで、レスタンス君。旅に必要な物はちゃんと用意してあるかな?」 「旅に必要な・・・・もの?」 え、だって、旅に必要な物は森の木で用意してくれんじゃなかったけ? 俺は何のことだかわからなそうな顔をしていたら、隣でレオさんがちょっと困ったようなため息を吐きこめかみを押さえた。 「旅直前で用意されるものはテントとか寝袋とかで衣服とかは大樹の館まで取りに行かないといけないんだ。」 「・・・・・・・・」 全く知らなかった。というか、俺どんだけ目的の旅について知らないんだよ。 出発明日だぞ。 「やっぱり、まだ取りに行ってないんだね。昼食食べ終わったら大樹の館まで行こうか」 ニコッと優しそうな笑みを浮かべた。 はぁ、レオさんすんごく優しい人だ。こんなに迷惑かけてるのにこんなに優しいなんて。 もうこれ以上迷惑をかけたくない気持ちか俺は残っているオムライスを急いで食べ始めた。 「最初にパリライド王国に行ってみませんか?」 昼飯も食べ終わり、レオさんと共に大樹の館に行っている最中のことだ。 「パリライド王国?」 聞いたこともない国名だ。 「パリライド王国はアルディア王国に隣接してる国ですよ。 とても小さくて、森の木の半分ほどの国土しか持っていませんが活気があってよい国でしたよ。 僕も目的の旅のとき寄って楽しませてもらいました。」 へぇ・・・、パリライド王国か。 レオさんの言葉を聞く限り良さそうな国だな。 「良い国なんですね。 それじゃ、明日出発したらその国を目指しましょう。」 と、ニコッと笑いながら言った。 レオさんはありがとうございます。と、言って爽やかな笑みを浮かべた。 そして、何か思いついた様子でこちらに顔を向けた。 「レスタンス君。僕と君はこれから一年ぐらいは旅に出かけます。 やはり、そのぐらい長い間旅をしていると喧嘩位はするでしょう。 喧嘩というのはあまりしたくはないのですが、相手がいつも言えそうでいえない胸の内を知れるいい機会です。 ですが、僕の友人で旅の共に敬いしすぎで言えることも言えず、旅の共の信頼関係が崩れた方がいます。 僕はそんなことにはなりたくないので、レスタンス君には僕に対し敬語で話さないでほしいのです。 友人として仲間として僕と会話してほしいのです。 身勝手なことですがお願いします。 ああ、もうすぐ大樹の館ですね」 レオさんは言い終わった後、大樹の館の方へと顔を向けた。 俺はなんと言えばいいのか困り、少し立ち止まった。 そして、何か言おうとして声をかけようとしたが、 「レスタンス君。なに立ち止まってるんですか。早く行きましょう。」 と、レオさんに急かされてしまったので、何も言わず後を追った。 「レオさん、さっきのことなんですけど、少しレオさんのことを知るまで敬語で話しててもいいですか?」 大樹の館で目的の旅に必要なものをもらった俺とレオさんは俺の家まで荷物を運ぶため大荷物を持って歩いていた。 レオさんはええ、いいですよ。と、言って笑みを浮かべ、レスタンス君は礼儀正しいんですね。と言った。 そんな風に言われたら照れてしまいそうだ。 レオさんの方がよっぽど礼儀正しいからだ。 「そう言えばレオさん。今なら俺の旅の共を引き受けてくれた理由話してくれますか?」 昨日から、そして今もとても気になっていた疑問。 なぜ、レオさんが俺の旅の共を引き受けてくれたか? 今なら、誰もいないし言ってくれるはず。 「実はですね。昨日君が忘れた顔半分の仮面。 あの仮面の裏見ましたか?」 「裏・・・?見てませんね」 「裏にですね、君の目的の旅の目的が書いてあったんですよ。 目的の旅では旅の共以外は目的を見てはいけないそんな掟があります。 もし、旅の共以外が見たらその責任は目的の旅人の方にあるのです。 いくらなんでも僕が勝手に見たせいで君が責任に問われるのは忍びないと思いましてね、 それで君のたびの共を受けたんです。」 レオさんの旅の共を引き受けた理由を聞いてショックを受けた。 「レ、レオさん。そんなんで俺の旅の共を引き受けてくれたんですか!? そんな、目的を見ちゃっても黙ってれば、判りっこないですよ。」 「・・・たしかに僕しか見てないし、黙ってれば誰もわからないでしょう。 ですが、森神様はどんなことでも見てるでしょ。 そしてら、黙っているわけにはいかないでしょう。」 俺はその言葉に黙り込み、うな垂れてしまった。 「そんなに落ち込まなくてもいいですよ。 確かにこうなったのは偶然です。だけど、僕は旅の共やりたい理由がもう一つあるんです。」 「もう一つの理由?それって何ですか」 「もう一つの理由。 それはね・・・・・・。」 その理由を言おうとしたレオさん。 結構緊張しながら聞こうとしていたが、その理由を聞く前にある声によって遮られた。 「レオさーん!」 若い女性の声が背後から聞こえた。 重たい荷物にもたつきながらも後ろに顔を向けると、ショートへアの可愛らしい女性が手を振っていた。 「やっぱりレオさんでしたね。こんにちは。 ・・・あ、あのもしかして、レオさんその大荷物、目的の旅ですか?」 若い女性は元気よくこちらに近づいてきたが、俺たちが持っていた大荷物を見て少し顔を曇らせた。 この女性・・・もしかして恋人か!? そうすると、本当に申し訳ない気がしてきた。 俺のせいで恋人と離れ離れになってしまうのだ。 すごく気が滅入り、うつむいた。 ああ、すごく楽しそうに会話してんな。 本当に本当にすみません。恋人と離れ離れにしてしまって・・・・・ 彼女、レオさんが旅の共と聞いてすごく悲しそうな顔してたしなぁ・・ 「レスタンス君。レスタンス君!」 いきなり呼ばれて、ヘイッと変な掛け声を上げ顔を上げた。 「ごめんね。重い荷物持ってるのに話し込んじゃって。」 気づいたら先程の女性もいなくなっていた。 これ以上、レオさんに迷惑をかけないように下を向きながら、いえ別に平気ですと弱弱しく答えた。 俺の弱弱しい返事を聞いてレオさんは心配してしまい。 「疲れたんだったら、そこら辺で休みますか?」 「平気です!!もう元気すぎて飛び跳ねたい気分なので大丈夫ですっ!」 本当に大丈夫なのだろうかと言う顔をして、レオさんはこちらを見つめた。 「ならいいのですが・・・」 と言った。 「そうだ、レオさん。今の方恋人ですか?」 話を変えるため、先程の女性について質問した。 「先程の方ですか。 恋人ではありませんよ。友人の方で、とても親切で優しい女性です。」 「へぇ、そうなんすか」 あんなに親しそうにしてたから、恋人だと思っていたがちがうのか。 ほんの少しだけ気が軽くなった。 荷物のほうも気持ち軽くなった気がする。 レオさんと歩きながらいろいろ話した。 学校でのこととか話して、レオさんも自分について話してくれた。 レオさんは樹木の館(森の木の役所)に勤めているそうだ。 つまり役人。 レオさんが勤めている課は休むのが難しく、年に二回位休めれば良い方という程大変だそうだ。 大変っすね。と言ったら、慣れれば結構平気だよと言った。 それに、旅の共を引き受ければ仕事休めるからね。と続けて言った。 その本音に思わず笑ってしまった。 レオさんは話術に長けており、とても話してて楽しかった。 ・・・のだが、一つ気になることが。 歩きながら話している最中のことだ。 女性が話しかけてきたのだ。 さっきも話しかけてきたのだから、気にすることもないだろうと思いたいのだが。 話しかけてきた人数が異常なのだ。 レオさんを見かけて手を振ったのが10人程。 駆け寄ってレオさんと話したのが10人から15人程。 まぁ、レオさん女性にモテて十分な紳士的な態度で優しい性格、爽やかな笑顔を持ち合わせている。 狙っている女性も多いだろう。 ・・・と思いたいのだが、 話しかけてきた女性との会話に耳を澄ましてみると 「レオさん、目的の旅に出てしまうんですか。 私、すごく悲しいです。」 「ええ、僕もです。 貴女のような美しい女性と一年近くも離れ離れとなるとは 胸が締め付けられそうな思いになります。 それに、貴女の笑顔が見れないとは酷く悲しいです。」 「どうしてですか?」 「貴女の笑顔は僕の心を癒してくれます。 その笑顔が見れないとは残念なことなのです。」 と、これが会話の一部。 一つ、言っとくこの女性は恋人ではない。 知り合いだそうだ。 なのに、なのにこの台詞は何だ。 聞いてるだけでも恥ずかしくなりそうな台詞。というより、歯が浮くような台詞といっていい。 その会話を聞いた後、俺はしばし呆然とした。 この台詞に。 だが、すぐにある癇癪をした。 レオさんはこの人に思いを寄せてるのだ、と。 つまり、レオさんなりのアプローチの仕方というわけだ。 納得し、心の中で頷いた。 すぐにその考えも吹っ飛んだけどな・・・ その数分後だ。 新しい女性が話しかけてきた。 その女性にもあの歯の浮くような台詞を言ったのだ。 今回もこっちが真っ赤になってしまいそうな程の台詞。 これまた呆然と聞いた。 頭の中でははてなマークとあれ?という言葉が大量に浮かんでいた。 そして、その後も女性が話しかけてきたが、レオさんの台詞は全て恥ずかしく変な誤解をしてしまいそうなものだった。 その台詞を聞いてある考えが浮かんできた。 まさか、まさかレオさん・・・・ 実は。。。。 「そろそろ君の家ですね。もう一踏ん張りですよ。」 自分でも冗談だろという考えが浮かんだときには、もう俺の家の近くに来ていた。 「本当は君のご両親にお会いしときたかったんですけど、 僕のほうも明日までに仕事場に報告とかいろいろやっとかないといけないことがあるので無理そうですね。」 とん、と持っていた荷物を置き言った。 荷物を背負いっぱなしだったせいかレオさんは両肩を軽くまわした。 「なんか、レオさんごめんなさい。 いきなり旅の共やってもらって、仕事とかもあるのに・・・・・」 「そんなっ!そんなこと気にしなくてもいいよ。 僕も一生に一度は旅の共やってみたかったし。」 「そうすか・・・」 「それじゃ、僕はこれで帰るよ。 明日は樹林広間で出発の儀式をやるからね。 そこで会おう。」 爽やかな笑みを浮かべ、軽く片手を挙げて歩き始めた。 こっちもそれに返すように軽く手を上げ、それじゃと言ったが、あることを思い出した。 「レオさん!そういえばまだ聞いてませんでした。 レオさんの旅の共を引き受けたもう一つの理由ってなんすか?」 歩き始めてたレオさんは俺の言葉にえっ、という感じで振り向き、そして思い出したように。 「そういえば言ってなかったね。」 「ええ、すっごい気になってたんすよ。 今なら教えてくれますよね。」 「うん、もちろんだよ。」 とにこやかに答えた。 やっと、やっとレオさんのもう一つの理由が聞ける。 正直にいうとあの時浮かんだ考えに関係しているのではないかと勘ぐっている。 もし、俺の考えがあっているとかなりショックだけどな。 「僕が君の旅の共を引き受けた理由。 それはね・・・・・」 「森の木の女性ほとんど口説き終わっちゃったんで外の女性でも口説こうと思ったからです!」 と爽やかで紳士的な笑みを浮かべていった。 ←前のページ トップ 次のページ→ |