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     第六話 レオ・ボスニアン 
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    「うわああぁぁぁぁあああぁぁっ!!」 
     
     
     
     
     
     
     
    思いっきり絶叫して、机に伏せた。 
     
     
     
     
     
     
     
    「あらあら、アルトゥルちゃんどうしたの?」 
     
     
     
     
     
     
     
    俺の絶叫に驚いた、マスターが心配して声をかけて来てくれた。。 
     
     
     
     
     
     
    俺が今居るのは森の木の外れ、カフェユニコーン。 
    大樹の間で武器を授かった俺はものすごく泣け叫びたくなってここに来たのである。 
     
     
     
     
     
     
     
    「どうしてさ、どうして俺の武器が傘なわけ。納得できないだろうぉぉぉ!!」 
     
     
     
     
     
     
     
    大樹の間にあった棺の中には決まりで決まっている仮面と 
    自分が持つことができる唯一の武器が入っているはずだった。 
    だが、棺の中には剣も銃も入っては無く、 
    その代わりに滅茶苦茶ボロイ傘と汚れた仮面だけが入っているだけだった。 
     
     
     
     
     
     
    一言で言えば俺の武器はこのおんぼろの傘一つって言うことだ。 
     
     
     
     
     
     
    こんなボロ傘で何が出来るんだ? 
    魔物なんかに襲われたらひとたまりも無い。 
    荒野で一人のたれ死ぬことが目に浮かんでくるようだ。 
     
     
     
     
     
     
     
    「アルトゥルちゃんの武器ってそこにあるボロくさい傘なの?そりゃぁ、災難ねぇ。」 
     
     
     
     
     
     
    「災難どころじゃないよ、マスター。俺このままだと家に帰れずにのたれ死にしそうだよ。」 
     
     
     
     
     
     
     
    背筋を伸ばす気力すらなくなり、だらしなく腕をぶら下げて頬を机に置いた。 
     
     
     
     
     
     
     
    「のたれ死にすることは無いわよ、アルトゥルちゃん。そんなことがないように旅の共が居るんじゃないの。」 
     
     
     
     
     
     
    「旅の共かぁ。」 
     
     
     
     
     
     
     
    うつろな目で店内を見た。 
     
     
     
     
     
     
     
    「俺なんかに旅の共が付いてくれんのかなぁ。」 
     
     
     
     
     
     
     
    俺の呟きにグラスを拭いていたマスターが驚き、グイッと顔を近づけた。 
     
     
     
     
     
     
     
    「アルトゥルちゃん何言ってるのっ。旅の共は無理やりでも決めなくちゃいけない。それが目的の旅の決まりなの。」 
     
     
     
     
     
     
    「だけどさぁ!俺には木々を操る力もないし森神・・・さまに信仰してない唯一の森の民。こんなおかしな奴どんな物好きが旅の共を引き受けてくれるんだよ。」 
     
     
     
     
     
     
    怒りと悲しみ、悔しさのあまり声を荒たげて、机に拳を叩き付けた。 
     
     
     
     
     
     
    でも、危うかった。 
    森神の事をサマ付けで呼ぶのを忘れてしまいかけたのだ。 
    一応森の民の前では森神はさま付けで呼ばないとならない。 
     
     
     
     
     
     
     
    「アルトゥルちゃん、そんなに僻まないで。きっと、そんなアルトゥルちゃんでも快く思ってくれる人がいてくれるから。」 
     
     
     
     
     
     
    「そうだ、な。」 
     
     
     
     
     
     
     
    ちょっと落ち込みながらポジティブな考えを持つことにする。 
     
     
     
     
     
     
     
    「ほら、元気を出すためのホットココア。お砂糖たっぷりよ。」 
     
     
     
     
     
     
     
    白いマグカップに並々と注がれたココア。 
    甘く香ばしい香りがする。 
     
     
     
     
     
     
    ありがとうと小さく言った後、マグカップの淵に口をつけた。 
     
     
     
     
     
     
    おお、うめぇ。 
    ものすごく甘い中にも香ばしさがあって癒されるぜ。 
     
     
     
     
     
     
    ごくごくと旨そうに飲んでいたら、急に横から問いかけが来た。 
     
     
     
     
     
     
     
    「君、目的の旅人ですか?」 
     
     
     
     
     
     
     
    一瞬の間が空いた後、ヘッと声を上げて声をかけたらた方を見上げた。 
     
     
     
     
     
     
    そこには人の良さそうな笑みを浮かべた、男性が立っていた。 
    茶髪で左側の前髪を後ろに撫でつけ、首筋にかかるほどの髪の長さ。 
    そして、青緑色の瞳。 
    細身で背はマスターと同じぐらいの180センチぐらい。 
    第一印象は結構女性にもてそうな好青年の人だ。 
     
     
     
     
     
     
     
    「えっと、そうだけど。」 
     
     
     
     
     
     
     
    ポカンと呆けた表情をしながら、これまたポカンとした声で答えた。 
     
     
     
     
     
     
     
    「やっぱりそうでしたか。そうすると後ちょっとでこの森の木を離れることになるんですよね?」 
     
     
     
     
     
     
    「え?ああ、そうみたい。」 
     
     
     
     
     
     
     
    とりあえずは返事をしたもののいつ森の木を出るのか俺は全く知らないのだ。 
     
     
     
     
     
     
     
    「がんばって下さい。森の木から出るとそこはまるで別世界ですからね。 
    あ、それとマスター。僕にコーヒーをブラックで下さい。」 
     
     
     
     
     
     
     
    はぁいと返事をしたマスターは背中を向けて嬉しそうにコーヒーを淹れ始めた。 
     
     
     
     
     
     
    ・・・・マスターああいうタイプ好きだからな。 
    だから嬉しいのだろう。 
     
     
     
     
     
     
    マスターはあんな口調で性格だが立派な男性だ。 
    奥さんはいるものの、オカマっぽさがあるせいか店の中は閑古鳥が鳴くこともしばしば。 
    でも、食い物を作る腕は森の木で右に出るものは居ないほど上手い。 
     
     
     
     
     
     
    じゃここは、マスターに気を利かせてそろそろ帰ろうかな。 
    この人と話すんだったら俺はちょっと邪魔者になる。 
    それに目的の旅に必要なものを用意しなければならない。 
     
     
     
     
     
     
     
    「マスター、俺そろそろ帰るよ。 
    あんまり遅くなると母さんたちも心配するし。」 
     
     
     
     
     
     
     
    いすから立ち上がり、横に立てかけてあった俺の武器、というより傘を掴んだ。 
     
     
     
     
     
     
     
    「あらぁ、もう帰っちゃうの。ちょっと寂しくなっちゃうわぁ。」 
     
     
     
     
     
     
    「また、今度来るよ。ああそれと、ココアどんぐらいだっけ?」 
     
     
     
     
     
     
     
    ちょっと残念そうにするとマスターに笑った後、財布を取り出した。 
     
     
     
     
     
     
     
    「ココア代はいいのよ。私からの旅出祝いって言うことでただにしといてあげるわ。」 
     
     
     
     
     
     
    「へへっ、サンキュー」 
     
     
     
     
     
     
     
    得した気分で店から出ようとしたとき。 
     
     
     
     
     
     
     
    「あ、目的の旅人さん。」 
     
     
     
     
     
     
     
    と先程の男が声をかけてきた。 
     
     
     
     
     
     
     
    「はい?」 
     
     
     
     
     
     
     
    少し失礼だが首だけ後ろに回し男を見た。 
     
     
     
     
     
     
     
    「森神さまの祝福を君に。」 
     
     
     
     
     
     
     
    そういって、男は森の礼をした。 
     
     
     
     
     
     
    俺も戸惑いながらも男のほうを向き森の礼をした。 
     
     
     
     
     
     
    森神さまの祝福は武器を授かるときにほしかったな。 
    そうすれば、傘ではなくちゃんとした武器をもらえたのに。 
     
     
     
     
     
     
    軽快に低めの階段を上り、店の扉から出ようとしたときふと、俺は思い出したように後ろを振り返り男に言った。 
     
     
     
     
     
     
    「また、会うかどうか判らないけど俺の名前はアルトゥル・レスタンス。よろしくな。」 
     
     
     
     
     
     
     
    まぁ、森の木で暮らしていればいつかは会えると思うがとりあえず名前ぐらい言っとこう。 
     
     
     
     
     
     
    男はそうですか、と言ってにこやかに笑いながら 
     
     
     
     
     
     
     
    「僕の名前はレオ・ボスニアンです。こちらこそよろしくお願いします。」 
     
     
     
     
     
     
     
    ああ、と言い軽く笑った後店を出て行った。 
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    家に戻りながら先程の男の名前レオ・ボスニアンという名前カッコいいな。 
    羨ましいぜ。と思いながら帰っていった。 
     
     
     
     
     
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