第五話 目的と武器












脇に置いてあるお香の香りが眠りを誘い。
部屋内の程よい温度が睡魔を進行させた。
それに、眼を瞑って周りの光景が見れないので何も考えることがなく、
眠りに集中してしまう。
族長の呪文もまた一定のリズム(しかもこれが低い声で)唱えているのでこれもまた、俺の眠りを誘った。





最初はちゃんと真正面を向いていた俺の頭が、
次第に下に向いて、い――く――・・・。





・・・・・・ハッ!?





カクンと頭が一気に下を向いた瞬間、思考が戻り急いで顔を上げた。
だが、思考が戻っても睡魔は去ってはくれず何度も頭をカクン、カクンさせる。





ぞくちょぉぉぉ、早くその長ったらしい呪文終わらせて目的を俺に授けてくれぇぇぇ。
俺は眠くて眠くて仕方がないんだっ!





眼をぎゅっと瞑り、心の中で叫ぶ。





クソッ、睡魔め。
いつも、大事なときに襲いやがって俺に恨みでもあんのかっ!
族長の前で居眠りしたら俺は一生その居眠りの汚名が付いて回るかもしれないんだぞ。
いくらなんでも居眠りの汚名は俺でも被りたくはないんだ。





はぁ、でもこの族長の呪文はいつもで続くのだろうか?
かれこれ、二十分は唱え続けていると思う。





仕方がないから何か面白いことでも想像して睡魔を取り払おう。





・・・・・あくまで面白いことであって、やらしい事は想像しないつもりだぞ。





じゃ、何考えよっかな。
眠気を覚ますような面白い話か。
どんなのがあったっけ?





あのときの話が良いかも。





考える面白い話が決まり、族長の呪文に耳を傾けないよう考え始めた。





そのときだった冷気が襲ったのは。





背筋が冷たい指で撫でられるような感覚。
睡魔を一気に跳ね返すような身震い。
頭の思考が遮断されるような気配。





・・・・・周りが静かだ。
族長の呪文を唱える声が聞こえない。





急に怖くなり、そっと眼を開けた。





族長はだらしなく腕をぶら下げ、頭は下を向いている。
その様子はどうしても意識があるように見えず、恐る恐る声をかけようとしたとき。





バッと族長の顔が上がった。






「ひっ」






族長の顔があまりにも恐ろしくて、後ろに倒れかける。





族長の顔は先程見たように二枚目な顔だったが、眼が、白目を、剥いている。急に族長の口が開き、呪文を唱えたときのような低い声が出た。











                    全てを救え



            千年前の意思を引き継ぎ自らの希望を灯せ



               捧げられし者を守り、信じぬけ



          銀色に光り輝く物こそがそなたの最高の武器である



          そしてその武器で破壊者なる黒き者を永久に葬り去れ



            勝利のとき語られるのは忘れられし者の物語



        そなたには祝福と旅の終わりとして銀色の雨が降る注ぐであろ
                   う・・・・・












族長はそれだけ言い終えると、もう一度頭を垂れた。





・・・・な、なんなんだ今の。





もしかして、俺の目的か?
それはまずい、俺今の言葉ちゃんと聞いてない。





いや、その前に族長無事?
なんか、意識が無いように見えるけど。






「ぞ、族長大丈夫ですかぁ――――・・・・?」






恐る恐る話しかけ、上体を族長近づけた。






「・・・・・・・・」





「族長?生きていすかぁぁ?」






声をかけてみたが段々と不安が募り声が小さくなっていく。
声をかけても反応がしないので肩を揺さぶることにしてみた。
ゆっくり慎重に腕を伸ばしていき族長の肩に手がかかる瞬間だった。





さっきと同じようにバッと顔を上げたのだ。






「うぎゃ」






驚きのあまり情けない声を出した。だが、族長はさっきみたいな怖い顔、と言うより白目は剥いていなかった。






「アルトゥル君、わしはちゃんと君に目的を伝えられたかな?」






いきなりの質問である。
まだ、驚きが消えていないせいかおどおどしながら答えた。






「え、あ、は、はい。目的は伝えられました。」





「・・・・・ふム、そうか。」






族長はだらりと下がった腕を腕組みしこちらの瞳をまっすぐ見つめた。






「では、アルトゥル君そこの扉に入り大樹の間で武器を授かりなさい。」






族長は後ろを向き、俺が入ってきた扉とは逆の扉を指差した。






「わ、わかりました。」






おっかなびっくりな状態で頷く。






「ど、どうもありがとうございました。」






最後に森の礼をし、族長の横を腰を低くて通り過ぎようとしたとき






「アルトゥル君、森神さまのご運をそなたに・・・・」






そう言った後、族長もまた森の礼をした。





はい、と小さく返事をした後、俺は扉を開き入っていった。


















扉の向こうは広々とした部屋はなく小さな小部屋になっていた。






「ここで武器授かるのかな?」






想像していたよりもしょぼい部屋だな・・・・
もう少し豪勢な造りを想像してたんだけど。





キョロキョロしながら、一歩前に進み部屋の中央に行った、時だった。





ブオンと床が鳴り、床が青白く光だしたのだ。






「な、なん――――」






最後まで言い終える前に床の感触が無くなった。
驚きと恐怖で頭がパニックに陥る。
それにあたり一面真っ白だ。





だが、この感覚は床がなくなって落ちている感覚ではなく。
まるで自分の身体が浮くような感覚だ。
この感覚には吐き気を覚える。





しかし、この感覚も一瞬で終わり。
真っ白だった視界が急に戻り、
視界はぼやけているものの先程のような小さな部屋の風景になっていた。





ぼやけた風景が段々と鮮明になっていき、そして、





ドスンッと音がした。
俺が床に倒れたのである。





・・・・・肩が痛い。
受身も取れずに不様に床に肩を打ちつけた。
ここまで痛いと声を出す気力さえ無くなる。





床に横たわりながら涙目で部屋を見渡した。
さっきの部屋と似ているもののどこか微妙に変わっている。
多分、先程の部屋からこの部屋まで移動したのではないだろうか。





こういう奴って確かテレポーテーションといったような気がする。
魔法のことはあまり勉強したことが無いのでわからないが、そんな類のものでここまで来たのだろう。






「はぁ、痛いなぁ。つうか、族長もちゃんと言ってほしいよな。」






ぶつぶつ文句を言って、よっこらせと掛け声を出して立ち上がった。






「目的かぁ、俺族長が言ってくれた目的ぜんぜん聞いてなかったぜ。
ちくしょう。」






と呟きながら目の前の扉を開けた。





どうやら、大樹の間はこの建物の最上階の部屋らしい。
天井はぽっかりと開いていて晴れ晴れとした青空が覘いている。





太陽の光を直に浴びてるせいか、壁の周りにはつたやらコケなどがびっしり生えている。どう見てもこの部屋は作られてから一回も手入れをしていない。断言できる。
それにしても、寂しい部屋だな。
さっきの目的の間よりも10倍ぐらい大きいというのに何も置いていないのだ。





いや、部屋の中央になんか置いてある。






「・・・・・?」






なにあれ。
棺みたいな感じなんだけど。





好奇心にそそられ、近づいてみる。





やっぱり棺だ。
しかも、石で作られているせいか物々しい感じが漂っている。






「もしかして、こんなかに武器が入ってんのかな?」






つうかこれ以外何にも無いからこの中に入っていないとおかしいだろ。
あ、でも棺開けるのって結構抵抗あるな。
だって、死人入れる箱だろ棺って。





まぁ、いいや棺だからって死体が入ってるわけじゃないだろうし。
武器が入ってんだったらびびって開けないわけもいかない。





どんな、どんな武器が入ってるのだろうか?
今まで森神さまに愛されていなかったから、せめてこの武器だけは他の奴より優れたのがほしい。





例えば、馬鹿でかい剣。
鉄さえスパッと切ってしまうような切れ味を備えてる奴。
それか、百発百中の銃でもいいかも。
勿論見た目もかっこいい奴だ。





期待を胸に棺の蓋に手をかける。
力を込め、ガタンと音を立て蓋を開けた。





心臓の鼓動が大きくなる。
段々と蓋が開いていくと同時に顔がにやけた。





なんか、普通に開けてみるよりも目を瞑って開けたほうがどきどきしないか。よし、期待して目を瞑ってみよう。





目をぎゅっと瞑り、蓋を開けた。





ガンと音を立てて石の蓋が落ちる





ああ、やばい緊張してる。
よ、よし、深呼吸したあと目を開けてみよう。





ドクン、ドクン、と心臓がなる。
深呼吸を一回して、俺は恐る恐る目を開けた。





そして、その中に入っているものを見た。





そこに入っているものは傘だった――――








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