第一章 森の民





























涼しい風が流れ、心休まるような鳥たちの声がする。
だが、そんな中一人暑っ苦しく叫ぶ少年がいた。
この物語主人公、アルトゥル・レスタンスである。









「ネオォォオオ!!おまえ俺に恨みでもあんのかっ!?」









怒りといい加減にしてくれという気持ちで思わず声を荒げた。








ここは家への帰り道の途中にある人通りのない小さな広場である。
そこで俺は運悪く敵対するネオ・ライセントの待ち伏せにあってしまった。しかも、ネオの子分つきで。









「お前これで、待ち伏せ何回目だと思っているんだっ!未遂も入れて99回、今までの嫌がらせを入れればなんと412回目なんだぞ!」








目の前にいる憎きネオに向かって指を指し、怒りを爆発させる。最初は面倒くさい奴だなと思ったが、ここまで行くと面倒ではなく目障りな奴だ。









「アルトゥル。おまえ勉強はぜんぜん駄目だなと思っていたが、そんなことに頭使っていたのか。呆れるぜ。」









厭味をいい、しかも、ため息を吐きわざとらしく両肩をあげるネオ。








その言動に俺の頭の血管がぶち切れそうになる。








確かに、確かに勉強は駄目なくせにここまで細かく記憶しているのは俺でも呆れる。しかし、お前に言われる筋合いはない!!








「お前にそんなこと言われる必要はないっ!それにこっちがその嫌がらせの多さに呆れる!」









強気に言ってみたものの、強面のネオの子分に睨まれ思わず腰が引けた。








ネオの子分は背が高くちょっとがっしりした体型のネオに対し、まるでプロレスラー並みの体格。顔はそこら辺の不良が逃げ出しそうなほど怖い顔をしている。そんな奴らが五人ほどいた。









「ふんっ、ハズシに対して嫌がらせを何回やったって別に良いだろ?
誰も文句なんて言う奴なんていないんだからな。」





言い終わった後ネオはクククッと笑った。






『ハズシ』という言葉に全身がかっと熱くなる。







「ネオ、俺のことをそんな風に呼ぶな。
呼ばれ慣れてるけどお前に言われるのだけは嫌だ。」







声を少しでも凄みを利かせた。
しかし、冷静を装ったが今にでもネオに対し殴りかかりたい。
その感情を抑えるために、拳を痛いほど握り締める。







「おいおい、俺にだけ言われるのが嫌って、差別じゃねぇの?」







笑い声が含んだ声で言った。
それに、ネオだけではなく子分たちも笑う。






ゆ、許さない。
ここまで侮辱されたらもう黙ってはいられない。
たとえ勝てなくてもぶつかってやる。
なんてったって、俺の座右の銘は『当たって砕けろ』だからな。
勝てなくても当たって華麗に砕けてやる。






覚悟を決めた俺はカッコよく指をビシッとネオに向け、







「ネオ!俺に対して言った暴言に後悔するんだな。
俺は絶対お前を一発殴ってやる。」







言ってるせりふの意味はかっこよくないが、雰囲気的には決まったぜ。と心の中で思った。一方、殴ってやるといわれたネオは『そんなことできるのか?』という表情をしている。






出来るさ。
いくら怖い子分に囲まれようが、ボコボコに殴られようが絶対に一発殴る自信はある。






よし、覚悟しとけよネオ。
痛ーいパンチをお見舞いしてやるぜ。






俺は拳を構え、一歩前に踏み出した―――――――
























森の民。
木々を操る力を持つ種族の名前だ。






森の民はアルディア王国の領地の東北、辺境に住んでいる。
そこを『森の木』と言い、森の民は巨大な木々と共に暮らしていた。






森の民には信仰する神がいて、その神の名を『森神』と呼んだ。
森神は森の民に木々を操る力と幸運を授けると言われている。
森神は一千年という長い間森の民の歴史の中で全ての森の民に信仰され続けた。






だが、そんな長い歴史の中で始めて木々を操る力を授からず、森神に信仰しなかった人物がいる。






それがアルトゥル・レスタンスだ。






彼は純粋な森の民というのに木々を操る力を授からなかった。
そのため、周りの人々から異様に見られた。






子供たちが彼に対し『ハズシ』と呼ばれているのもこの理由からだ。
ハズシ』は正確に言うと外し者という意味であり、
彼に対しては差別と嫌悪の意味で使われている。
それと、からかいと見下しでのあだ名としても使われていた。
そんな辛い仕打ちを受けているアルトゥルに
木々を操る力を授けてくれる森神を信仰するのは酷な話である。






だが、力を授けられなかった森の民は彼しかいないので彼の気持ちを理解してくれる人はいなかった。






そんな誰にも理解されない日々が続いていたある日。
彼に転機が訪れる。






それは10年に一度の行事。
目的を授かり、目的を達成させるための旅。
その旅で彼は分かり合える仲間たちと出会った――――――








            ←前に戻る トップ 次に行く→